夜が襲う

彼氏が寝たあとがこわい。

彼氏が。ではなくて、彼氏の意識がいなくなった環境に取り残されている状況が、こわい。

急にひとりにされて、カーテンを抜けて想像の中の社会が脅かしてくる。

これからどうするんだろう。お金もつのかな。また仕事が待ってる。また通勤が待ってる。通勤シュミレーターが勝手に起動する。苦しくない程度の満員。普通を装えば、平気を装えば、通行人役のエキストラを真面目に演じれば、顔を特定できない小物を纏えば、気持ちは後ろからおずおずとついてきて、身体はともかく進む。都会っぽい音楽を聴いて、影のように歩く。わたし、普通の人の役。

アニメに出てくるような、ボディーガードのような、執事のような、そういう人が身近にいる身分じゃないのがいたたまれる。誰かが守ってくれないと、最寄り駅から外へは辛い。

むかし、どうしても学校に行きたくなかったときに、お母さんが「ずっと心配しててあげるから(学校行け)」と言われたことがある。そういうことだったんだろうけど、そういうことじゃない。ついに大泣きして、大声で「行かない」とその場にいた両親に伝えた。制服までは、着れていた。

中学生のときも、卒業間近で何度もお母さんに無断でずる休みをした。ついに学校に連絡すらもしなくなった日、とうとうバレて、学校へ向かった。

こわいで密かに有名だった担任の先生は、わたしを見て、優しく「こら」と笑った。わたしが欲しかったのはそれだった。許されるのはつらいことだとのちに読む漫画で学んだけど、そのときは許されることがわたしの救いだった。

わからないんだよね、休むことが悪だと過ごしてきた世代には。休むことが悪だと信じてやまないお母さんには。

今日、お母さんから逃げる夢を見た気がする。一緒に住んでたころよりは、お母さんも丸くなった。正直にメールすれば、絵文字はないけれど、わかったような文章が返ってくる。

いま、お金がなくて通信のお金が払えないことを正直に話していいのかな。ローンでお金を借りていることは話すべきなのかな。あんなに攻略してきた相手なのに、いまだに読めないところがある。

彼氏の家庭に産まれてたら、わたしはこんなんじゃなかったのかな。理想的な家庭。母性と父性が乱れていない家庭。いつまでも家族に囚われている。家族が敵だなんて、笑えない皮肉だ。

自分で稼いで買ったゲーム機すら、責められる対象に見える。いつまでもお母さんに囚われている。

早く刑期が終わってほしい。終身刑なら、早く殺してほしい。