仕事仕事仕事

金がない。ずばり。

それは副業で必ず会うお客さんにバレてしまったようで「生活苦しいの?」と聞かれてほんとに苦しいと冗談ぽく話した。

金がない。なんでかって、仕事が安定しない。

いや、本業はもうすぐ就いて2年が経ちそうなんだけど、家が近かったころから行きたくないし休むし、引越して片道の時間も交通費も3倍になってから余計に行きたくないし休むから。

どれだけシフト入れてもらっても、休む。もう仕事が合ってないなんて、面接が終わったときからわかってたはずなのに。

何してるんだろう。お母さんの言いなりがいやで、中学生からの目標が"家を出る"で、それが大学進学で、やっと家を出て、大学で楽しくやってたら、今度は社会が目の前にやってきて、でもわたしには目標がもうなくて、結局バスで8時間かかる地元でずっと待ってるお母さんに言われた仕事をやってる。

お母さんの言いなりになりたくないのに、今では自分からお母さんの意図を汲んでる。生活費もらってるし。当たり前かもしれない。何してるんだろう。わからなくなる。

お母さんの人生じゃないのよ、と言われた。そうなんだ。お母さんの人生だと思ってた。思えばちっちゃいときからお母さんの理想を兄弟みんなが背負わされてた。兄ちゃんは昔からゲームが得意だったから、上手に逃げて今ではつかずはなれずの距離で、だけど完全に遮断して生活してる。

姉ちゃんは、高校生の頃からやりたい放題だったから、お母さんのことを気にしてるふりして、今でも自分がやりたいように生きてるし、結局お金持ちとずるずる付き合ってるから、お金には困らないだろう。わたしに仕送り用の通帳が渡ったことが何よりの証拠だ。

わたしは。わたしは、ずっと上のふたりを見てきたから、お母さんの攻略にはきっと兄弟の誰より長けてる。ただずっとお母さんの攻略法しか学んでこなかったから、自分の、社会の攻略法がわからない。みんな、どうやって生きてるの。なんでみんなお仕事できるの。なんでみんな生活できるの。なんでみんな生きれるの。

中学生の頃から家を出るのが目標だとさっき書いたけど、もうひとつ目標がある。38歳で死ぬこと。これは中学二年生のとき、成人式で20歳になった自分に宛てた手紙を書いていて、内容なんて覚えてないまま成人式でもらったときに「あと半分ですね。」と偉そうに書いてあったので本気だ。今ではちょっと、自信がないけど。でも理想ではある。はやく死にたい。38歳には理由があって、太宰治が好きなわたしは、太宰治より長生きしたくないからだ。なんなら高校生のうちに死にたかったけど、高校生活はなんだかんだで楽しんでしまったしなあ。

この目標は最近後輩にしたことがあって、「なんで38歳なんですか」って聞かれたんだけど、"太宰治より長生きしたくないから"なんて中二病すぎて、「なんとなく」なんて便利な言葉ではぐらかしてしまった。むかし好きだった後輩にそんな話したくねえよ。わかってた片想いだった。

いまは楽しい。最寄り駅を出なければ。よく遊ぶ誰かと一緒だったら。だけどお風呂が嫌いなのは引っ越す前から変わらない。お風呂が苦手だ。時間がかかって疲れる。癒されることなんてない。あがったあとのスキンケアの時間と髪が乾くまでの時間を考えると憂うつだ。のろまなのかなあ。時間がかかる身体が迷惑だ。

やりたいことがある人がうらやましい。自分で思いつくんだもん。わたしがやりたいことなんて、家から出ないことと、服と化粧品がいっぱい買える制度がほしいだけだ。家は出ないけど。

楽しかった過去はどこに行ったんだろう。大学を卒業してからも、一緒についてきてくれると思ったのに。ついてきたのは、ちっちゃい頃から抱えてた劣等感と根拠のない自責だけだ。

誰のせいでもないらしい。家族のせいでも、わたしのせいでも。だからこそ、なおさらこの状況が曇って見えない。わたしのやりたいことはどこなんだろう。わたしがなりたいものはなんなんだろう。ちっちゃいときは、アイドルになりたかったなあ。小学生と、中学生のときは、小説家になりたかった。高校生のときは、ハロプロに入りたかった。お寺にこっそりお願いしたこともあった。大学生のときは、イラストレーターになりたかったし、ビレバンでPOPが書きたかった。とにかく絵が描きたかった。サークルでポスター作らせてもらえたり、文化祭の装飾のお手伝いをやらせてもらったり、それこそ文化祭でサークルの会場の装飾の監督みたいなのもやらせてもらえて、めっちゃ嬉しかったな。わたしのセンスでいいんだって、わたしのセンスっていいんだって、みんなが証明してくれた。

この中で、お母さんが乗り気になってくれたのは、小説家だけ。というより、小説家しか口に出せなかった。アイドルなんて、イラストレーターなんて、やりたいなんて言ったら、ごちゃごちゃに怒られて、あー攻略失敗ってなるのが見えてたから。

だから、アイドルやってる人が、イラストレーターやってる人が、とてつもなくまぶしい。ステージに立ってる人が、顔を出して印刷物に載ってる人が、とてつもなくまぶしい。あーこの人たちは、親の応援を受けてるんだって、理解のある家族に属してる人たちなんだって、よかったねって、嫌味じゃなくて、やりたいことがやれる運命にいてくれてよかったって思う。

わたしは。わたしは、お母さんに許されない。きっと。泣いて電話しても、今の仕事をやりながらにしなさいって、きっと言われる。わたしもそのほうがいいと思う。でも、わたしの中身は、もう無理です。家を出たくないなんて、38歳で死にたいなんて、思ってる今のわたしの中身は、もう調理されすぎて、焦げ焦げだ。知らない人に怯えながら、後ろから通り過ぎる自転車にビクつきながら、家に入るときに後ろを気にしながら、毎日生きてるわたしには、もう、無駄な寿命しかない。早く死にたいんだけどな。世間体を気にしまくるお母さんが生きているうちは、どれだけ死にたくても、とりあえず生きてなきゃいけないんだ。お母さんが死んだら、わたしも死ねるのに。でもこれじゃ、ほんとにお母さんのための人生だなあ。

年内で本業を辞めようとしている。お母さんから逃げるための1歩にしようとしている。なんなら副業も辞めたい。なんだか怖い組織になってしまったし。

そしたらわたし、やりたかった"家から出ない"ができる。ああ、そういうことなのかな。でもそしたら?

金がない。